カンヌ審査員賞受賞の「そして父になる」 海外での評価は?

是枝裕和監督がメガホンをとり、息子が出生時に取り違えられていたことを知らされた家族の葛藤(かっとう)を描いた「そして父になる」。

 

 

福山が初の父親役に挑戦し、共演の尾野真千子、リリー・フランキー、真木よう子らが出演、第66回カンヌ映画祭で、審査員賞を受賞した今作品は、この受賞によって注目が集まり、日本で9月28日に封切られ、現在興収32億円という大ヒットを記録しています。

 

すでに世界230カ国・地域での配給も決定している同作ですが、公開になった国でどのような評価を受けているのでしょうか。

 

そして父になる【映画ノベライズ】 (宝島社文庫)

カンヌで受賞した際に印象的だったのが、この映画祭で審査委員長を務めていたスティーブン・スピルバーグ監督がこの映画をとても評価していたこと。
そのスピルバーグ監督が熱望したことにより、スピルバーグ率いる米映画制作会社のドリームワークスオフィスにて「そして父になる」が、リメイクされることが決定したのが9月、これを受けて是枝裕和監督が緊急渡米し、スピルバーグ監督と対談した際に、スピルバーグはこのように話していました。

 

「あの作品は本当に素晴らしかった。非常に高いレベルでのエモーショナルな感動があり、5月に見て感動して、それから6、7、8、9と4か月たっているのに、まだ同じハイレベルの感動が残っている。本当に素晴らしい。感動的で、カンヌで見てボクはボロボロ泣いていたんだけど、審査員室に入って行ったら、ほかの審査員もみな涙してたんだよ。リメイクさせてくれる決断をしてくれて感謝しています」と、映画祭の当時を振り返りながら手放しで絶賛したと言います。

 

そんな巨匠が褒め称えてくれた映画でもあり、なによりカンヌ受賞作だけに、注目度も高い中、今月に入って韓国でも公開され、韓国映画振興委員会の映画館入場券統合ネットワークによると、今月19日に封切られた同作は27日午前現在、累計観客動員数が3万1013人を記録したといいます。

 

公開から3日で1万人を突破し、興行成績ランキングでも10位に入り、6日目には2万人を超えたとのことで、これは今年公開の小規模芸術映画で最高の興行成績を記録した米映画「25年目の弦楽四重奏」より3日早い記録なのだとか。

 

又今月15日には第56回アジア太平洋映画祭の授賞式がマカオで行われ、ここでも映画「そして父になる」が最優秀作品賞に選ばれるなど、伝えられているアジア圏での評価は高いようです。

 

そして今月、カンヌの受賞作だけに大きな影響力を持つといわれ、注目度も高い中、クリスマスにフランス・パリでも公開となりました。

 

映画.comの記事によりますと、配給会社のLe Pacteもいつになく宣伝費を掛け、一般観客へのプレビューをおこなったり、街の広告塔や地下鉄にポスターを張り出していたといい、そのせいもあってか、日頃は日本映画を見ない幅広い観客層が映画館を訪れている印象で、マスコミや批評家の反応も好評だといいます。

 

実際、サイトやツイッターなどには観客の感想、以下のような書き込みがみられるとのこと。

 

「最初は平凡な話だと思ったが、物語が進むに連れ引き込まれ、最後はとても感動した」「こんな理不尽な目にあっても、日本人が怒鳴ったりキレたりせず、冷静に対処するのに驚き、感銘を受けた」という声が多いといいます。

 

というのも、フランス人は感情を抑制することが苦手だといわれており、その瞬間の気持ちを素直に爆発させるタイプのラテン系フランス人にとって、誰にも当たり散らすことなく怒りを押し殺すキャラクターたちの、日本人ならではとも思われる姿勢や対処にたいして反応する人が多いというのですね。

 

もちろん、それだけではなく、その底に流れるさまざまな人間の感情、心の絆をどんな国の人々にも沁みる親子の深いドラマへと昇華させた点の評価は高いようで、日刊紙のル・モンドは「デリケートで詩的。観客を魅了する限りない優しさを発揮する」と評し、リベラシオン誌も「是枝の演出のクオリティはディテールにある。たったひとつのショットで多くのことを語ることができる」と絶賛しているようです。

 

そんな評価の高いこの作品ですが、意外にも米国のアカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品には選ばれなかったとのこと。

 

海外でも評価の高い「そして父になる」を選べば有利な気もしますが、なぜ選ばれなかったのでしょう。

 

同賞を主催する米国の映画芸術科学アカデミーは、最優秀外国語映画賞への出品について、1国1作品の規定を設けているといいます。

 

各国における選考は、その国の映画関連団体に委ねており、日本でその任を負うのは、日本映画製作者連盟だということ。

 

9月、映画関係者である評論家、脚本家、プロデューサー、監督などによる選考会を開催し、実際に選ばれたのは、辞書作りに情熱を注ぐ編集者たちを描いた「舟を編む」という作品でした。

 

このことは、米映画専門紙「バラエティ」がニュースとして取り上げ、米映画業界のニュースサイト「Deadline Hollywood」が「賞の有力候補とされていたが、国内の選考で選ばれなかった」と評するなど、海外でも物議をかもしたといいます。

 

10月に発売された雑誌AERAの記事によると、 日本での選考過程は見えにくく、審査基準に関して、アカデミーは「その国で最高の映画」と示すだけ。映連も、選考の理由や方法は非公表だといいます。

 

選考委員の一人は個人的な見解と断ったうえで、海外での注目度が低い「舟を編む」が選ばれた理由を、「納棺師という文化的に特徴ある人物を描いた『おくりびと』が、日本映画で初めて外国語映画賞を取った(2009年)。それを非常に大きな収穫とする意識が委員にあったのかもしれない。実際、議論の中で、『舟を編む』を日本文化を伝えるものとして推す意見も出ました。」と話したそうです。

 

又、別の週刊誌などの記事に「そして父になる」が選ばれなかった理由として挙げられていたのが、この映画の「テーマ」にあるのではといった内容。

 

同作品は、6年間育てた息子が、生まれたときに病院で取り違えられた他人の子であることを知らされた父親の苦悩や葛藤を描いた作品であり、この「親子にとって血のつながりとは何か」というテーマが、アメリカでは共感を得られにくいのではという意見なのですが、そもそもトム・クルーズは黒人の養子を、ブラッド・ピットは実子が生まれた後にも養子をもらっているなど、アメリカは養子国家であること、そして、養子にまつわる映画も多く、他人の子どもを育てることが普通であるアメリカでは、「そして父になる」の父親の悩みは理解されづらいのでは?というのです。

 

しかし、フランスでも養子をとる親の例も珍しくないといいますし、この部分の共感が得られないということが選考の際に影響したのかどうかははっきりしませんが、そういった話も出ていました。

 

アメリカでもスピルバーグによってリメイクするとされているこの作品、今後、スピルバーグ監督の手によってどのように仕上がり、受け入れられるのかも興味深い所です。

 

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