フィギュアスケートの名コーチは?といって名前が浮かぶのは、高橋大輔や安藤美姫を育てたニコライ・モロゾフ氏、数々の金メダリストを輩出し、浅田真央の振り付けをしたことでも有名な、タチアナ・タラソワ氏といった、第一線で活躍する選手のコーチたち。
そしてもちろん、バンクーバー五輪でキム・ヨナに、ソチ五輪では羽生結弦に、金メダルを獲らせたブライアン・オーサー氏もまた、最強のコーチといえる1人だろう。
現在、彼に師事するスケーターには、羽生の他、スペインのフェルナンデス、2011年カナダ・ジュニアチャンピオンのナム・ニューエンなどがいる。
オーサー氏は、2度のオリンピック銀メダル、世界選手権金メダル、8回連続のカナダ選手権のタイトルを獲得するなど、シングル男子選手としての実績も高い選手だった。
現役引退後、ショースケーターをしていたオーサーが、カナダ・トロントの「クリケットクラブ」を拠点に、コーチに転身したのは8年前のことだ。
指導者となった彼の選手へのコーチング論は徹底しているという。
AERAの記事によればこうだ。
「結弦もヨナも、私のところへ来る前から的確な指導を受けていた。だからこそ国際レベルに成長した。過去の指導を否定したり、クセを直そうとしてはいけません。選手のすべてを受け入れ、こちらが合わせるのです」
コーチ自身の理論に合わせて選手の技術を修正するのが一般的だが、オーサーは逆なのだという。
羽生とこの2年間やってきたことも、羽生の性格や練習のタイプを知り、彼が求めているものを与えることだと話している。
羽生が求めている練習の形、イメージというものを捉えて、それにあわせた指導の与え方をするということのようだ。
例えば、羽生選手の場合、自分で考えながら練習したいタイプなので、むやみに口出しすることは控えたという。
2人の練習では、羽生のジャンプをオーサーが撮影し、その都度一緒に映像をみて、「見た目はこうだ」「跳んだ感触はこうだ」と意見を出し合いながら、「成功するフォーム」を分析するという。
一方、同じチームのスペインのハビエル・フェルナンデス選手は自分の身体感覚だけを重視する選手だという。
なので、彼の場合は撮影はせず、オーサーが「今のジャンプは左に傾いていた」「じゃあ次は右を意識します」など会話を繰り返し、身体に覚えさせていくのだという。
そして、「人によって筋力や背丈が違うので、一般論が合うとは限らない。選手に与えるべきなのは、技術ではなく自信。快適に滑れる環境が大事なのです」とオーサーは話している。
実際、オーサーが現役選手だった頃、「ミスタートリプルアクセル」といわれるほど3Aの得意な選手だったと言われている。
しかし、そんな自身が得意とするジャンプを、「私と同じフォームで跳ぶように」といったことは一度もないという。
自分に出来たこと、良いことがどの選手にも良いとは限らない、そのジャンプの指導が得意であったとしても・・・ということだろう。
かつて、キム・ヨナは、トリプルアクセルを習得したくて、オーサーに支持したといわれているが、練習しても飛べなかったことを、ヨナ自身が過去に発言しているようだ。
成功する見込みのない3アクセルを練習するよりも、3ー3回転の精度を高めることをオーサーは薦めたという。
その選手にあった技術を高め、ジャンプばかりでなく、正しいスケーティングの上に技術が成り立つという考え方で、基礎であるスケーティングを、どの教え子にもしっかり学ばせているようだ。
実際に、羽生のこの2年間の伸びを見れば、オーサーコーチの指導法が、羽生には合っていたのだろう。
そんなオーサー氏のコーチング論をもっと詳しく知りたいという方は、自伝の「チーム・ブライアン」を是非読んでみて欲しい。